人は生前、自由に自分の意思に従って自己の財産を処分できます。
それと同じように、被相続人は、生前、遺言書によって自己の財産をどう処分するか決めることができます。
しかし、何の制限もなく自由に処分できるということになりますと、相続人が相続財産を一切相続できないということも起きてしまいます。
例えば、相続人が被相続人の妻と子という場合に、被相続人が生前お世話になったAさんに全財産を遺贈するというような遺言書を作成していたとしますと、相続人である妻と子は、相続財産を一切相続することができなくなってしまいます。
妻と子にとって、今後の生活のために相続財産が必要な場合、非常に困ったことになります。
そのため、兄弟姉妹以外の相続人(配偶者、子又はその代襲相続人、直系尊属)には、遺留分が認められています。
1、遺留分とは
遺留分とは、兄弟姉妹以外の相続人に対して確保された相続財産の一定割合のことをいいます。
また、遺留分により確保された相続財産の一定割合を相続しうる権利のことを遺留分権といい、遺留分権を有する相続人のことを遺留分権利者といいます。
なお、遺留分が認められているのは兄弟姉妹以外の相続人であり、兄弟姉妹は遺留分権利者になることはできません。
前述の例のように、被相続人が残した遺言書の内容に従うと、相続人に対して確保された相続財産の一定割合(遺留分)を相続できなくなってしまうケースでは、相続人は遺留分を侵害されたことになります。
遺留分を侵害された相続人(遺留分権利者)は、遺言書により相続財産を取得する相続人や受遺者に対して、自己に認められた相続財産の一定割合を確保するために遺留分減殺請求をすることができます。
2、遺留分減殺請求とは
遺留分減殺請求とは、遺言書等により、遺留分を侵害された相続人が、遺留分を侵害した相続人や受遺者に対して、その侵害された額を請求することをいいます。
この請求を受けた相続人や受遺者は、侵害した額を渡さなければなりません。
遺留分を侵害されている場合でも、侵害されている遺留分権利者自らが請求しなければ、そのまま相続人や受遺者のものとなりますのでご注意ください。
また、遺留分減殺請求をする権利は、相続の開始及び自己の遺留分が侵害されたことを知った日から1年、あるいはそれを知らなくても相続の開始から10年が経過したときも、時効により消滅しますのでご注意ください。
3、遺言書と遺留分
遺留分は、法律上兄弟姉妹以外の相続人に認められたものですが、遺留分を無視した遺言書を作成した場合、その遺言書は無効になるのでしょうか?
遺留分を侵害していたとしても、その遺言書が当然に無効になるわけではありません。
遺留分を侵害していても、遺留分権利者がその遺言書の内容に納得して遺留分減殺請求をしなかった場合は、遺言書の内容をそのまま実現することができます。
しかし、多くの場合、遺留分減殺請求の可能性を考慮せざるを得ないのではないでしょうか。
遺留分を無視した遺言書を作成しても、遺留分権利者から遺留分減殺請求をされてしまいますと、請求を受けた相続人は侵害した額を渡さなければなりません。
結果として、相続人間に感情的なしこりを残してしまうことになる可能性があります。
遺留分を考慮して遺言書を作成することが大事です。